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惨敗

 父は蜂仲間と定期的に「蜂の会」を開催し、ここで情報交換をしてくる。
もちろん、お互いの近況報告も兼ねているのだが、試行錯誤を重ねた「結果」が随分と違う
のが実情だ。

今年も父は日本ミツバチを捕獲しようと巣箱を5箇所ほど置いたのだが、入ったのはたった
1箱。風に吹き飛ばされたものもあれば、人に撤去されてしまったものもある。
キンリョウヘンの実力をもってもこの程度とは、がっかりである。
それに引き換え、Sさんは3箱、龍ヶ崎に住むPさんは、なんと、なんと15箱も捕れたという!
話を聞くと、その差はどうやら置く場所にあるらしい。父は自分が分かり易いように木の下の
表側に置くのに比べ、Pさんは神社や寺といった人気のない場所の大きな木の下の、
人の目が届かない場所を選んで置くというのだ。そして、その蜂の巣マンションも父が
作るものよりも大きくてちゃんとしているという。これでは、勝ち目がない。しかし、
同じように作れそうもない。まあ、マイペースで楽しむしかないのだが、いささか悔しい。

捕獲できなくても、蜂仲間から譲りうけたり、もともといる日本ミツバチが分蜂したものを
上手く捕獲したりしながら、どうにかいるところが不思議なくらいだ。

母が言うには、父は人に「巣箱を作るのが好きだ」と話すという。まあ、初年度に比べれば
上達していることは確かだが、その出来をみたらお世辞にも上手とは言えないし、
「本当にお好きなんですか?」と内心思われるに違いない。今年は近所で日曜大工を
教えてくれる所を見つけ、テーブルと椅子を作ることになっているらしい。
どうかここで腕を磨き、巣箱作りに反映してくれることを密かに願っている。
でも、後から後からやることのある父は、いつも忙しそうで楽しそうでもある。

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キンリョウヘン(2)

 家に帰ると、すぐに母が駆寄ってきた。大した話ではないが、私に聞いてほしいことが
あるといそくさと近づいてくる。
「ほら、見て~。よく撮れているでしょう」
今朝のキンリョウヘンに作られた日本ミチバチの蜂球の写真を差し出してきた。
どうやら、まだ「蜂祭り」は続いているらしい。写真を見ると肉眼で蜂球を探せなかった理由が
よく解った。蘭が黒いビニール製のポット(鉢)に植えられているせいで、黒い蜂の塊と同化し
区別がつきにくい。説明がなければ、何を撮っているのか分からないと思う。

その後、この写真はカラーコピーで拡大され、額に入れて居間に飾ってある。
今のところ、後にも先にもこの1枚だけが、このような扱いをうけている。
よほど嬉しかったのか、「記念」なのだろうか。

大役を果たしたキンリョウヘンだが、蜂たちに長時間生き埋めにされていたせいで、その熱で
ぐったりと疲れ果て、その後、水をやっても太陽にあてても元の姿に戻ることはなかった。
これを教訓に次に購入した花にはネットをかぶせ、直接蜂たちがとまれないようにした。

蜂仲間と共にこぞってこの花を買うようになると、年々値が上がっていくようになった。
初めの年は980円だったものが、1300円になり、1600円となっていった。
おまけに次の年からは、天候不順を理由に花の咲いていない苗を買わされたが、
どのツボミも開花することなく季節が過ぎ、全く活躍してもらえなかったのだ。
3年目の季節を迎えても、やはりツボミのままの苗しか店頭には並んでいなかった。
プロが育てても花の咲く時期にツボミしか持ち合わせていないのなら、そこから素人の
父が育てて花をさかせることは難しい。父の手なごが悪いといえばそれまでだが、
なんとも残念な結果続きとなった。

すっかりキンリョウヘンのことは諦めていた今年、蜂仲間のKさんから思いがけず、
花を頂いた。株分けに成功し、みんなに配っているという。父ひとりでは、どうにもならない
ことも周りが助けてくれる。父を見ていると、少し羨ましく思う。

キンリョウヘン(1)

 ある日、父がヘンな植物を買ってきた。蘭の一種で名は「キンリョウヘン(金稜辺)」。
大きさはひょろひょろの15センチ程度。いくつかツボミを持っているものの、咲いている花は
少なく地味な薄暗い紫色をしている。見た目は冴えないが、日本ミツバチを惹きつけるという。
父はこの情報を「蜂の会」で聞きつけ、仲間と共にホームセンターで購入したという訳だ。
値は980円と安い。とても観賞用には向かないので、安いのだろうか。まあ、これで
日本ミツバチが捕まえられるなら、安い買い物だろう。父がどれぐらいその効果を
信じて購入したかは知らないが、私としては話半分という感じで聞いていた。むしろ、
そんな花で本当に捕獲できるのか、と疑いの目で見ていたといったほうが正しかった。
父はそのぱっとしない花を母と私に見せびらかし、嬉しそうに蜂の巣マンションの隣へ置いた。

私の予想とは裏腹に、その実力はすぐに発揮された!
母が朝の7時半から騒いでいる。「お父さん、大変よ。蜂がキンリョウヘンに来ているのよ!」
設置して2,3日後のことだ。窓から巣箱を眺めると、キンリョウヘンにビッシリと蜂が
たかり、蜂球を作ってぶらさがっている。「見てみて、あそこ!」。黒い塊はわかりにくい。
ちっとも何処にあるのか、わからなかった。「何で分からないのよ~」。母がイラついている。
こっちは会社にいく仕度があり、そうそう構ってはいられない。
父は蜂仲間に一目見てもらおうと、興奮気味に電話をしている。

私が家を出る頃、目と鼻の先に住むHさんとSさんが我家に駆けつけた。
キンリョウヘンを買って日本ミツバチを捕獲したのは、父が一番初めだったこともあり、
2人ともどんな塩梅なのか、確かめようと訪れたのだ。
外では4人で、ヒャーヒャー盛り上がっている。朝から「蜂祭り」。賑やかである(笑)。

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※キンリョウヘンのツボミ。

収穫祭(2)

 蜜ぶたの裏側には、ハチミツがたっぷりついているが、残念なことに人の手でこれを集める
ことは出来ない。しかし、これも捨てる前に巣門の近くに置き、全部蜂たちに舐めてもらう。
こうして還元することで無駄がなくなる。レンゲ蜜を搾る前に下準備として搾った蜜も然り。

バケツにどんどん蜜ぶたが溜まってく。いつもここで、そのひとつをつまみ味見をする。
箱から巣ヒを出した時点で、周囲にはハチミツの甘い香りが漂ってくる。鼻で楽しみ、
蜜ブタの裏を見た瞬間に目に訴えてくる。この香りと黄金色に輝くハチミツを前にして、
とても、とても、瓶に詰めるまで待てない。

封を剥がしたものから順々に手動の遠心分離機にかける。これはいつも母が担当する。
欲張って強く回して多くの蜜を採りたいところだが、実はあまり強く回せない理由がある。
巣は代々次の子孫に残し使ってゆくものだから、ここで力を加え、壊してはいけないのだ。
巣穴に蜜が入っているときは蜜が壁となり、それぞれの六角形を保っているが、蜜が
ない巣穴は意外にもろく、注意が必要となる。とはいえ、母はもう少し力を加えても
いいのではないかと、傍からはそう思える。

ドラム缶に似た分離機の下から、搾った蜜が流れ出る瞬間が何とも嬉しい。
ドロッとした黄金色の液体が後から後から流れてくる。蜂が巣箱から飛び立つ姿を眺める
ことに通じるものがある。見ていて楽しい。嬉しい。とてもキレイで癒される。

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自然の恵みに感謝。



収穫祭(1)

 事後報告になるが、5月5日の早朝、ハチミツを搾った。
巣箱が蜜でいっぱいのなると、その重さは10キロにもおよぶ。重さに負け、よろけても
危ないので母も手伝うこととなる。
前日からレンゲ畑に出向き、2段重ねのうち、蜜が溜まっているものを上段に移しておく。
当日になってから品定めしていては、遅いということだろう。

巣箱の蓋を開け、煙燻器で上から全体に煙を吹きかけ、蜂を大人しくさせる。
巣ヒ(スヒ)を持ち、表面についている蜂をふるい落す。それでも残っている蜂たちは、
ブラシで優しく払い落とす。そうして巣ヒだけをプラスチックの箱に順々に移し換える。
このとき、斜めにすると蜜が垂れてしまうので、垂直を維持しなければならない。
蜜ぶたがかかっているところは大丈夫だが、両面ぎっしり何処も均等にかかっている訳ではない。
蜜ぶたは3分の1程度かかっているものが殆どで、むしろ蓋がないところが多い。
1匹の蜜蜂が生涯をかけて集める量は、たったティスプーン1杯といわれている。
こんな貴重な恵みを分けて頂くのだから、粗末に扱ってはいけない。

巣ヒを家に持ち帰ると蜜ぶた剥がしが始まる。駐車場に新聞紙を広げ、その上で包丁で
封を切り剥がしてゆく。(詳しくは「下準備」の章を参照)
小さなバケツにどんどん剥がした蜜ぶたが溜まってゆく。

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※ 蜜ぶたの裏側には、ハチミツがたっぷりついている!

※巣ヒ・・・蜂たちが子育てをしたり、蜂蜜を溜めたりする巣のこと。

蜜ぶた

 巣箱をレンゲ畑に置き、約2週間が経とうとしている。レンゲ畑はますます花が咲き、
紫色のじゅうたんも一層色濃くなっている。前回見たときは咲き始めだったため、
枯れた花など見かけなかったが、今回はそんな花も見受けられるようになった。
レンゲは枯れた頃のほうが蜜を多くだすというから驚きだ。
花盛りと蜜盛りは別らしい。

私にとっては珍しいレンゲ畑も、父にとってはそうではないらしい。昔はどこの田んぼでも
レンゲ畑を作っていたが、今はいい化学肥料があるため、わざわざレンゲを蒔いて手間を
かける人が少なくなったということらしい。確かに、地元に田んぼは沢山あるが、レンゲ畑を
作っているのは、小田の地区しかみかけない。天皇への献上米として収めているという
米所だけあって、その辺は昔ながらの風情を残しているのかもしれない。

蜜の溜まり具合が気になる我家だが、どうにか9枚ほど「蜜ぶた」がかかってきている。
蜜ぶたがかかると、食べ頃を意味する。この封によって、ハチミツは何千年も持つといわれて
いる。ハチミツは初めは水のようにサラサラしている。働き蜂が胃につめて巣まで運び、
内勤の蜂に口渡しで蜜をあずける。こうして2度蜂の胃を通して酵素が含まれ、巣に貯蔵
される。それから数日間、夜通し蜂の羽で風をおくり水分をとばし、あの濃度になったとき、
封がされる。

いよいよ、収穫できそうだ。我家はレンゲに夢中になっているが、蜂仲間のSさんは早くも
次を考えているらしい。アカシアが咲いたと告げてきた。春は嬉しい限りである。

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